炭火で焼鳥を焼く時に大切なのは、火力の管理。
職人によっては「炭火の火力が安定すれば、焼くという作業自体はそれほど難しいものでもない」と言うほどです。そのため実際の焼き場では、営業中に火力が弱くなるようなことがないよう、営業前にその日の来店客数などを予想しながら、炭火の準備をしています。
本講座では、焼学【実践編】で解説役を務める『とりや幸 南青山店』焼き長に炭の熾し方を解説してもらいました。
店内環境と使用する炭
炭火は店内の空気の流れや使用する炭によって、燃え方や火持ちが変わるので、まずは『とりや幸 南青山』の焼き場の環境から説明します。
普段使用している焼き台は、上の写真のうち右側の一台のみ。焼き台は、一般的なもので幅は約1.5メートル程度、手前側に3つの吸気口が付いています。
焼き台の上部に排気ダクトがあり、向かって右側がより吸い込む作りになっています。空気の流れ上、炭は焼き台の中央付近からやや右寄りが燃えやすいため、それを踏まえて炭火の準備をしています。
使用する炭は、火持ちが良く長時間火力が安定する太めの備長炭(馬目割)と火が付きやすい細めの備長炭(馬目細丸)の2種類。これらと前日の消し炭を使い、火を熾していきます。
炭を熾す工程
① 前日の掃除
炭床に残った灰を掻き出す。
形の残っている消し炭は、消壺に入れて取っておく。消し炭は、小さく、また乾燥しているため、火が付きやすい。火熾しの時間の短縮や、営業時間中に炭を継ぎ足さなくてはならない場合に利用する。
② 炭床に炭を並べる
備長炭(馬目割)を炭床にまんべんなく並べる。吸気口の近くなど、空気がよく通り燃えやすい中央付近からやや右寄りには、火持ちのよい太めの炭を置く。
大きすぎるものは、ハンマーなどで砕き、適度なサイズにする。
③ 消し炭で隙間を埋める
消し炭を足すことで、火が付きづらい太めの炭へ火移りしやすくなり、火熾しの時間が短縮できる。また、焼き台内部の空気量が減るので、炭が燃えすぎず炭の持ちが良くなる。
④ 火を熾す
火熾し用の鍋に備長炭(細丸)を入れ、火を熾す。
⑤ 熾った炭を炭床に並べた炭の上に置いていく
熾った炭を並べたら、炭床の炭に火が移るまで放っておく。所要時間は1時間程度。
⑥ 焼き台全体の温度が均等になるように並べ替える
よく燃えている場所と燃えていない場所の炭を入れ替え、火力を均一にする。
ロスを防ぎながら火力を安定させるために
炭床に流れ込む空気量を調節するために使うのが、焼き台の持ち手側についている吸気口です。火力を強めたい時は炭と多くの空気を触れさせるために吸気口を開き、逆に火力を弱めたい時は空気量を減らすために閉じる、というように使います。
実際の焼き場では、営業時間の前半は閉じ気味にすることが多いようです。これは、炭の量が多く空気を送らなくても火力が得られるため。逆に、開くと燃えすぎて営業時間終了まで炭が持たず、追加しなければならなくなりロスが発生します。営業時間の後半は、炭は燃えて量が減るので、少ない炭で火力を保つために、吸気口を開いて空気を送り込みます。
営業時間を通して、十分な火力を保つためには、炭の量と空気量のバランスを取ることが重要です。
火消しの方法
ラストオーダーが終了したら、炭の火を消します。一般的な火消しの方法は、火消し壺に入れて空気を遮断するか、水を使うかの2通り。
このうち、とりや幸南青山店では火消し壺を使用しています。ただし、火消し壺は、炭を入れると熱くなるので、木造の場合は火災リスクが高くなります。また、紙や布など可燃物が壺に触れるようなことがないよう、壺の周りには十分な空間を空けておく必要があります。
火消し壺が使用できない場合は、ステンレスのボールなどに水を張り、炭を入れます。火が完全に消えたのを確認したら、しっかりと水切り。湿気が飛ぶまで乾かしてから再度使用します。
最も重要なことは、当然のことですが、火災を起こさないこと。どちらの方法でも細心の注意が求められます。