多くの飲食店では、クレーム対応に課題を感じているところが多いのではないでしょうか。適切なクレーム対応は従業員の離職防止だけでなく、サービス品質の向上につながります。
本記事では、飲食店における効果的なクレーム対応の流れや、従業員を守るための組織づくりについて具体的に解説します。この記事を読めば、適切なクレーム対応について検討できるようになり、働きやすい職場環境の実現の可能性が生まれるでしょう。これからクレーム対応を仕組み化したい飲食店の方は、ぜひ最後までお読みください。
この記事を書いた人
橋本 淳 44歳
飲食企業の現役総料理長。副業でWebライターとして活動中。現在6年目。
料理人歴 25年目
日本料理:7年
イタリア料理:3年
居酒屋/やきとり/などの大衆料理:15年
飲食店におけるクレーム対応の重要性
日本労働組合総連合会(連合)の「消費者行動に関する実態調査」によると、飲食業を含む接客業に従事している人の約57%が、お客様からの苦情やクレーム・迷惑行為を経験しています。
クレームは、どのような飲食店でも起こり得ます。重要なのは、クレームが発生した後の店舗側の対応です。
クレームを単なる厄介事と捉えるのではなく、真摯に向き合いましょう。クレームはお店の課題を浮き彫りにし、改善へと導く機会となります。お客様からのご指摘は、時に厳しいものかもしれません。しかし、サービス改善のヒントも詰まっているのです。
お客様からのご意見を受け止め具体的な改善策を実行すれば、クレームの減少にもつながります。逆に、ご意見やクレームを軽視して対応を怠れば、お客様からの信頼は低下します。とくに現代では、SNSや口コミサイトを通じて情報が拡散されやすいため、店舗の評判はもちろんのこと、売上にも深刻な影響を及ぼしかねません。
また、クレームを通じて実践的な社内マニュアルの整備・改善を目指せるというメリットもあります。
現場でお客様と接するスタッフの意見を取り入れながら、組織全体で共有できる明確な対応マニュアルを整備することは、質の高い対応を実現できる手段となり得ます。
クレームへの正しい初期対応
クレームが発生したら、初期対応としては以下の行動が考えられます。
- 店長などの現場責任者へただちに報告。責任者が直接対応する
- まずは対象となる事象に対して謝罪する
- クレーム内容をしっかりとヒアリングし、状況を正確に把握する
- 改善・解決に向けて対処する
- 再度謝罪・感謝する
- 経営幹部などの最終責任者へ情報共有する
飲食店においてクレームが発生した際、その初期対応の質が店舗の評判を大きく左右することがあります。したがって、クレームが起きた場合は他のいかなる業務よりも優先度を上げて迅速かつ適切に対応しましょう。
迅速かつ誠実な初期対応をすれば、お客様の感情を鎮静化させ、問題が大きくなることを防げる可能性が高まります。
悪質な「カスハラ」
飲食店のクレームの中には、度を超えたクレーム「カスタマーハラスメント(以後カスハラと呼称)」もあります。
カスタマーハラスメントとは、顧客から不当な要求や不適切な言動を従業員が受け、就業者の就業環境を害することです。
過剰な謝罪要求や人格を否定するような暴言などがカスハラにあたる場合があります。
飲食店側は、従業員を守るために毅然とした態度で対応するべきです。適切な対応を怠れば、従業員のモチベーション低下につながりやすく、離職に繋がるおそれがあるからです。
東京都では2025年4月1日より、カスタマーハラスメント防止条例を施行しています。
防止条例では、カスハラを
① 顧客等から就業者に対し、
② その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、
③ 就業環境を害するもの
と定義しており、上記①~③の要素を全て満たすものをカスハラといいます。
これには、法令上違法な行為だけでなく、正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為が含まれます。
悪質なカスハラに対しては、決して屈しない明確な方針を従業員に示しましょう。従業員はお店に守られているという安心感を持ち、自信を持って対応できる可能性が高まります。
具体的な対応として挙げられるのは、クレームの初期対応の徹底や顧客の言い分へのヒアリング、カスハラへの対応マニュアルの整備等です。
注意すべき点としては、状況が把握できない段階で安易に非を認める発言を避けること。クレーム対応は、事実確認の後に過失部分に応じた対応をとるべきものです。
カスハラ対策については以下の記事でも解説しています。併せてご確認ください。
関連記事:お店にも責任あり!? 飲食店が取るべきカスハラ対策
実際に起きたクレーム対応事例を紹介
ここでは飲食店において実際に起きたクレーム対応の事例を紹介します。飲食店運営の参考にしてください。
事例:料理に関するクレーム対応からの改善事例
料理の品質や提供スピードに関するクレームは、多くの飲食店が経験するクレームのひとつです。
事例の店舗は、本館と別館合わせて80席を有する日本料理店です。店舗は社員10名、アルバイトスタッフ10名で構成されており、営業時間はランチタイム(午前11時~15時)とディナータイム(15時~23時)の通し営業しています。
営業に必要な人数はキッチン6名、ホール5名です。
金曜日のディナータイム、お客様から「提供された料理の塩気がいつもより強い」とのクレームが入りました。
初期対応はホールスタッフが行い、すぐにホールリーダーへ報告。ホールリーダーがキッチンに対応を問い合わせたものの、キッチンの反応が遅く、お客様は対応の遅さへの不満も加わり、残念ながらお帰りになってしまいました。
これによりお店の「クレーム発生時の対応の遅さ」「料理の味付けの不安定さ」の2つの問題が浮き彫りになりました。
これを受け、お店ではお客様の不満がエスカレートする前に解決へとつなげるため、まず新たにクレーム対応マニュアルを作成しました。
受付から担当責任者への報告フローを明確化、お客様への質問例や謝罪の言い回し、社内連絡のタイミングまで具体的に盛り込むことで、誰がどのタイミングで何をすべきかが一目で分かるようにしています。
加えて、実際の怒鳴り声を想定したロールプレイング演習を月に一度行い、「謝罪→事実確認→改善策提示」の流れを体で覚える訓練を重ねています。
これらの対策により、クレーム対応の平均所要時間は導入前の15分から3分にまで短縮。二次クレームも80%減少し、お客様が店を後にする前にほとんどの問題が解消できるようになりました。
例えば、改善後はお客様から「料理に異物が混入している」とクレームが入ったことをホールスタッフより連絡を受けてから、わずか2分後に責任者が謝罪と代替品提供の提案を完了し、結果としてお客様はその場で「迅速な対応だった」と評価してくださいました。
そして、もう一つ浮き彫りになった「味付けの不安定さ」に関しては、クオリティチェック体制の不備とレシピ不在が根本原因と判断。
調理担当者と料理長が必ず仕上がりを味見する仕組みを徹底し、全メニューを調味料ごとに分量まで詳しく定めたレシピに書き起こしました。これによって品質が安定し、クレームの再発防止にもつながっています。
まとめ
今回は、飲食店におけるクレーム対応の重要性、正しい初期対応の手順、について解説しました。
適切なクレーム対応は、単にお客様の不満を解消するだけでなく、従業員を守り、店舗への信頼を築き、さらにはサービス改善の貴重な機会となる重要な取り組みです。それは結果として、顧客満足度の向上にもつながります。
ぜひこの記事を参考に、店舗全体でクレーム対応力を高め、従業員が安心して働ける環境づくりと、より良い店舗運営を通して、顧客満足度を高めていきましょう。