クリスマスや周年記念など、特別なシーンで提供されることの多い「ローストチキン」はシンプルな料理ながら、火入れや下処理で味の差が大きく出る一品です。そして、ローストチキンは見た目の迫力も魅力の一つ。丸ごと提供する場合は、テーブル演出としてカットサービスを組み合わせると、非日常感を演出できます。
本記事では、中抜きの丸鶏を使った基本レシピとともに、肉の旨味を最大限に引き出す「漬け込み」、「焼き加減」、「提供時の工夫」まで、年間約90万羽を手作業で捌く鶏肉を知り尽くしたプレコフーズの鶏職人チームが、飲食店の現場で再現できる仕込みと焼成のポイント、簡単な捌き方とテーブル演出をご紹介します。
ローストチキンのレシピ
材料
・丸鶏(中抜き) 1羽(1.3kgサイズ)
(A)ブライン液基本配合
・水 300ml
・塩 15g
・砂糖 10g
・粗挽き胡椒 2g
※Aは一度沸かして冷ましてから使用、お好みでタイムやハーブを入れると香り立ちがよくなります。
レシピ
① 丸鶏の中を綺麗に洗う
② (A)を合わせ一度沸かす→冷ます
③ 食品保存用袋に①と②を入れ空気を抜く
④ 一晩おく
⑤ 袋から出し水気を切る
⑥ 200℃のオーブンで約1時間焼き上げる
丸鶏を扱う前に知っておきたい下処理の基本

丸鶏を使う料理で最も重要なのは、下処理の丁寧さです。
中抜きの丸鶏は、内部に血液や小骨が残っていることがあります。流水でしっかり洗い、キッチンペーパーで水分を除去することが第一歩です。また気になるようであれば余分な皮や脂はこの時点でカットしておくこともおすすめします。
冷凍丸鶏の場合は、冷蔵庫での解凍を徹底しましょう。常温で急激に戻すとドリップが出て旨味が逃げてしまいます。
プロのブライン液で仕込み

(A)で示したブライン液は、肉質をやわらかくし、味を内部まで均一に入れるための基本。いわば「肉質を保ちながら味付けする」下味です。一度沸かして冷ますことで、塩分がしっかり溶け、均一に塩味が浸透します。
ジップロックに丸鶏とブライン液を入れたら、空気を抜いて一晩冷蔵。これで肉全体にブライン液が染み込みます。仕込みの手間は増えますが、焼成後の味の浸透度が格段に変わります。
オーブン焼成で仕上りを安定させるコツ

200℃のオーブンで約1時間は目安です。店舗のオーブンや鶏のサイズによって火の通りが異なるため、最終的には「中心温度75℃」を基準にしましょう。焼成前に表面の水分をしっかり拭き、オリーブオイルやサラダ油を塗ることで、皮のパリッと感が増します。
焼きの途中で外が良い焼き色になっても中の火入りが甘い場合には、アルミホイルをかぶせて焼くことで表面を焦げ付かせずに火入れできます。
また、焼きあがったら10分ほど休ませることで、肉汁が全体に行き渡り、カットした際に流れ出るのを防ぐことができます。
焼成後の捌き方と部位別の活かし方
焼き上がったローストチキンは、香ばしい香りとともに最も美しい瞬間を迎えます。しかし、焼き上がり直後のタイミングで慌ててカットすると、肉汁が流れ出たり、盛り付けの印象が崩れがちです。まずは10〜15分休ませることで落ち着かせ、旨味を全体に行き渡らせましょう。ここからがプロの腕の見せ所です。
もも肉とソリレス:旨味の核となる主役部位

もも肉はローストチキンの主役。骨に沿って付け根の関節を切り離します。
このとき、もも肉の付け根裏(座骨部分)にある楕円形の肉ソリレスを取り逃さないのがプロの所作。ここには旨味と脂が凝縮されており、フランス語で「愚か者は残すもの」という意味があり1羽から2個しかとれない希少部位です。
テイクアウトやデリバリーの場合は、カット後に耐油紙+ラップ+アルミホイルで三層包みにすると、湯気で皮がふやけず、香りを保てます。骨付きのまま1/2や1/4でラッピングすれば、家庭では出せない“特別感”を演出できます。
手羽元・手羽先:香ばしさを演出するパーツ

丸鶏の翼部分は関節でしっかり分かれています。包丁を無理に入れず、関節の隙間を軽く押して位置を確認してから刃を入れると、骨を傷つけずに外せます。
手羽元は繊維がしっかりしており、スパイスローストやガーリックソテーなど香ばしさを前面に出すメニューにも最適。手羽先は脂が多く、ビールやワインのつまみ系メニューに転用できます。盛り付け時に皮目を上にすることで、焼き色が映え、皿全体の立体感を引き出します。
むね肉:しっとりとした淡白さを活かす

むね肉は最も火が入りやすく、乾燥しやすい部位です。ブライン液の効果でしっとり仕上がるため、冷製チキンサラダやサンドイッチ素材としても重宝します。カットの際は皮側から包丁を入れると裂けにくく、スライス断面も美しく仕上がります。むね肉の内側には鶏肉の中でも特に高タンパク質・低脂質な部位「ささみ」があり、手で簡単に割くことができます。
丸鶏だからこそできる希少部位のカット

ここからはガラに残っている希少部位をカットしていきます。
①尾の部分は焼鳥ではお馴染み「ボンチリ」。
②むねの後方、おしり側の中央の三角の部分が「ヤゲン軟骨」。
③ヤゲン軟骨を切り落とした箇所から数センチ前方に鶏の鎖骨部分にあたる「マツバ」。骨の形がY字になっており「松の葉」に似ていることが由来とされています。
④ガラの両側面にある薄い膜が鶏の腹壁部分です。焼鳥屋さんなどで「鶏ハラミ」と言われている部位で、コリコリとした独自の食感とコクのある脂が特徴です。
まだ取れる!ガラ周りの小間肉

希少部位をすべて取り終わったら、ガラの骨についている小間肉をスプーンやフォークでフレーク状にほぐし、サラダや炒め物に使うことができます。取りにくい部分は手で進めましょう。
丸鶏から作るローストチキンだからこそ、鶏肉の全部位を余すことなく楽しめます。
提供時に差がつく盛り付けと提案方法

丸ごと提供する場合は、テーブル演出としてカットサービスを組み合わせると、非日常感を演出できます。一方、半身やカット提供なら、付け合わせやソースとの組み合わせで差別化を図りましょう。
提供直前にハーブバターを落としたり、ローズマリーを添えるだけで香りと付加価値が生まれます。ローストチキンは仕込みの安定性が高く、コース料理・テイクアウト・周年イベントなど多様なシーンに展開できる万能メニューです。提供後にSNS映えするような盛り付けを意識することで、販促効果にもつながります。
火入れと捌きの精度を高めれば、丸鶏1羽から得られる収益性と満足度の両立が実現します。
あなたのお店でも、ぜひ「焼くだけで終わらない一皿」を演出してみてください。
まとめ
丸鶏のローストは、一見シンプルながら「下処理・漬け込み・火入れ・カットと提供演出」の4工程で仕上がり大きく変わる料理です。基本精度が高まるほど、歩留り改善(利益率向上)、満足度向上(口コミ・再来店)、客単価アップ(特別体験として販売)を無理なく実現することができます。
焼き上げた後の部位別のカット技術と提供時の演出は、“ただ出す”から“記憶に残る体験”へ。
同じ丸鶏でも、捌き方次第で価値が変わる――それがローストチキンの面白さです。
冬のメニューや周年コースに、ぜひ貴店ならではのローストチキンを取り入れてみてください。お客様の“特別な日”を支える一皿になるはずです。
