飲食店の開業・運営にかかる主な経費

飲食店を開業・運営するうえで、最も頭を悩ませる課題の一つが経費管理です。売上を伸ばすことも大切ですが、適切な経費管理ができなければ、利益を確保することは困難です。本記事では、飲食店経営における経費の基本的な考え方から、具体的な管理方法、そして効果的な削減策まで、実務に即した形で解説していきます。

経費として計上できる項目

飲食店経営において、適切な経費管理は収益性を左右する重要な要素です。経費を正しく把握し、効率的なコスト管理を行うことで、健全な店舗運営が可能となります。ここでは、飲食店で計上できる主な経費項目について、固定費・変動費に分けて詳しく解説していきます。

固定費として計上できる経費

飲食店の固定費は、売上の増減に関わらず一定額が発生する経費です。

店舗の家賃

家賃は最も代表的な固定費で、通常は売上の8-12%程度が適正とされています。契約時に発生する保証金や礼金なども経費として認められます。

給与・保険料

従業員の給与や社会保険料も重要な固定費項目です。正社員の基本給や各種手当などの、人件費は売上の25-35%に収めることが望ましいとされています。

リース料・設備費

厨房機器などのリース料や、高額な設備投資に伴う減価償却費も固定費として計上できます。火災保険や損害賠償保険などの各種保険料、銀行手数料なども、事業運営に必要な固定費として認められています。

清掃費・衛生管理費

店舗の清掃費や害虫駆除などの衛生管理費、通信費やPOSシステムなどのIT関連費用なども固定費としてカウントされます。

変動費として計上できる経費

変動費は売上に連動して増減する経費です。

仕入れ費用

食材や飲料などの仕入れ費用は最も大きな変動費で、一般的に売上の28-33%程度が目安とされています。季節による価格変動や廃棄ロスなども考慮に入れた適切な在庫管理が重要です。

水道光熱費

水道光熱費も重要な変動費項目です。電気・ガス・水道などの使用料は営業時間や来客数によって変動します。省エネ機器の導入や節水の工夫により、コスト削減が可能な項目でもあります。

消耗品費

消耗品費には、食器や調理器具、事務用品など日々の営業に必要な備品が含まれます。また、集客のための販促費や広告宣伝費も変動費として計上できます。SNSやWebサイトの運営費用、チラシやメニュー表の印刷費なども該当します。

これらの経費は、税務申告の際に適切な勘定科目で計上することが重要です。不明な点がある場合は、税理士に相談するなど、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。経費の適切な管理と分析を通じて、より効率的な店舗運営を目指しましょう。
また、助成金や補助金を活用することで、事業の立ち上げや運営にかかる経費を大幅に抑えることができます。これらは基本的に返済不要の資金であり、設備投資や人材育成、業務改善など幅広い目的に利用できるため、事業を安定的に進めるための大きな助けとなります。

助成金や補助金については以下の記事でも詳しく解説しています。

飲食店の経費項目と理想的な割合

飲食店経営において、適切な経費管理は収益性を左右する重要な要素です。経費の割合を適切にコントロールすることで、健全な経営を実現することができます。ここでは、主要な経費項目とその理想的な割合について詳しく解説していきます。

FLコストの目安 （売上の50～60%以内）

飲食店におけるFLコスト（Food and Labor Cost：原材料費と人件費の合計）の適正値は、売上に対して50～60%程度が一般的な目安とされています。この比率が高すぎると利益率が低下し、経営が圧迫される可能性があるため注意が必要です。

内訳の目安

・原材料費（Fコスト）：20～30%
・人件費（Lコスト）：20～30%

ただし、適正値は業態やメニュー価格帯、地域の人件費相場によって異なります。例えば、高級レストランでは原材料費が高めになりやすく、ファストフード業態では人件費の比率が高まる傾向にあります。
FLコストの適正値を維持するためには、原材料費の管理が重要です。食材のロスを最小限に抑えるため、在庫を適切に管理し、必要な量を効率的に仕入れることが求められます。また、人件費については、効率的なシフト管理を行い、業務の無駄を削減することでコストを抑えることができます。
また、人件費や食材原価の詳細に関しては次の段落で解説いたします。

人件費の適正化（売上の30%以内）

人件費は飲食店の経費の中で最も大きな割合を占める項目の一つです。一般的に売上の30%以内に抑えることが理想的とされています。
適正な人件費を実現するためには、まず店舗の営業時間や客数予測に基づいて必要な従業員数を算出することが重要です。
また、シフト管理を工夫することで人件費を効率的に抑制できます。具体的には、来客数の多い時間帯に人員を厚くし、閑散時間帯は最小限の人数で運営するなどの調整が有効です。食材の仕込みや加工は、時間と手間がかかる作業の一つです。この作業を専門の業者に委託することで、従業員が仕込みに費やす時間を大幅に削減することができ、人件費の抑制につながります。例えば、野菜のカットや魚の下処理などを業者に依頼すれば、現場では最終的な調理や盛り付けに専念できるため、作業効率が向上します。

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食材原価の管理（売上の30%以内）

食材原価も人件費と同様に、売上の30%以内に収めることが望ましいとされています。この目標を達成するためには、仕入れ先の選定から在庫管理、食材ロスの削減まで、総合的な取り組みが必要です。
仕入れ先の選定では、価格の安さだけでなく、品質の安定性や納品の正確性、緊急時の対応力なども重要な判断基準となります。複数の仕入れ先と取引することで、価格交渉力を高めることもできます。
在庫管理では、適正在庫量の把握と定期的な棚卸しが重要です。発注量の最適化や先入れ先出しの徹底により、食材の廃棄ロスを最小限に抑えることができます。また、仕込み量の適正化や余った食材の有効活用など、日々の細かな取り組みの積み重ねが原価率の改善につながります。

また、仕入れについては以下の記事でも詳しく解説しています。

家賃・水道光熱費の目安

固定費の中でも大きな割合を占める家賃は売上の10％以下 が理想とされています。売上はさまざまな要因によって変動しやすいため、売上が低下した場合でも安定した経営ができるよう、家賃の割合は10%以下に抑えることが望ましいです。

また、水道光熱費の目安は売上の5～10％ とされていますが、業態や地域によって変動が大きいため注意が必要です。光熱費の削減では、LED照明への切り替えや省エネ型の調理機器の導入など、設備面での対策が効果的です。また、従業員への節電・節水の意識付けや、使用量の可視化による管理も重要です。これらの取り組みは、短期的には投資が必要になりますが、長期的にはコスト削減効果が期待できます。

家賃の考え方と物件選びに関しては以下の記事で詳しく解説しています。

経費管理を効率化する方法

飲食店経営において、利益を確保するためには売上を伸ばすだけでなく、経費の適切な管理と削減も必要です。以下では、デジタルツールや外部サービスの利用について解説しますが、経費を管理するために大きな経費が掛かっては本末転倒ですので、活用する際は計画的に行いましょう。

デジタルツールの活用
デジタルツールの活用は経費最適化に役立ちます。クラウド会計システムの導入により、リアルタイムでの経営状況の把握が可能になります。請求書・領収書のデジタル管理により、書類の保管スペースや管理工数を削減でき、経費精算の自動化で経理担当者の作業負担を大幅に軽減できます。

バックオフィス業務の委託
開業時は忙しく、1人ですべての作業をこなすことは困難です。バックオフィスの業務などは専門家に委託することで自分の作業負担を減らしながら、経費削減のアドバイスをもらえます。

税理士の活用
税理士の活用では、確定申告や税務申告の適切な処理により、余計な税負担を避けることができます。また、経費計上の最適化についてのアドバイスを受けることで、適切な経費管理が可能になります。

社会保険労務士の活用
社会保険労務士の活用も重要です。給与計算・労務管理の効率化により、人事関連の作業時間を大幅に削減できます。また、社会保険の手続き代行や労働基準監督署への各種申請代行により、煩雑な行政手続きの負担を軽減することができます。

経営コンサルタントの活用
経営コンサルタントの活用は、より専門的な視点から経費削減を進める上で効果的です。収支改善計画の策定支援では、具体的な数値目標の設定と実現可能な改善スケジュールの作成により、計画的な経費削減を行うことができます。

まとめ

飲食店を開業・運営するうえで、適切な経費管理は利益を確保し、安定した経営を実現するために欠かせない要素です。本記事では、人件費や食材原価、家賃・水道光熱費といった主要な経費項目を整理し、それぞれの理想的な割合や具体的な管理・削減方法を解説しました。経費の効率化には、日々の細やかな管理だけでなく、デジタルツールの活用や専門家の助言を取り入れることも重要です。
また、経費の適正化を進めることで、収益性の向上だけでなく、店舗運営全体の効率化にもつながります。売上の拡大だけに注力するのではなく、経費を正しく把握し、最適化することで、堅実な経営基盤を築いていくことが可能です。

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