鴨肉は、実は日本に古くから根付く食肉。
日本の文献で鴨に関する記述が初登場するのは、奈良時代に記された「播磨国風土記」。応神天皇が射止めた鴨を「羹(あつもの)」(※スープのこと)にした、という一文があります。肉食文化が一般的でない時代でも、鴨を食用とする記録は様々な形で残されています。近世に入るとその味に魅せられた豊臣秀吉が、鴨の飼育を奨励。江戸時代には鴨南蛮そばが考案されるなど、鴨肉の魅力に権力者も庶民も等しく虜になってきたのです。
なぜ鴨はそこまで愛されてきたのか? その答えはひとつ。美味しいから! です。この記事では、そんな鴨肉の美味しさについて掘り下げながら、新たに発売となるプレコオリジナルブランド鴨「岩手 美海鴨(みうながも)」についてご紹介させていただきます。
鴨の種類

繊細な気質のチェリバレー種の肥育には細心の注意が必要
いにしえの時代に応神天皇が弓で射たような野生の鴨の多くは「マガモ」といわれる種類。今はジビエ肉として流通することが多く、めったに一般市場に出回りません。その肉は歯応えある野性味豊かな味わいが特徴です。
現代の我々が食べている鴨肉は、マガモを食用に改良した家畜としての鴨で、様々な品種が存在します。大型で肉付きが良く、フランス料理に欠かせない「バルバリー種」、フォアグラ用に品種改良された「ミュラー種」など。特にイギリス原産の「チェリバレー種」はマガモより柔らかい肉質でくさみも少なく、日本国内で輸入流通している鴨肉の中心となっている品種です。

食用に改良された鴨種のベースとなったのは野生の「マガモ」
鴨肉の特徴

鴨南蛮は文化年間(1804~18)に江戸の馬喰町にあった蕎麦店「笹屋」が発祥といわれる
鴨肉の美味しさの特徴とは何なのでしょう? ひとつは、非常に脂が多く、こってりとした味わいであること。下記の表からも鴨肉が非常に脂質の多い肉だとわかります。
【食肉における可食部100gあたりの成分比較】(単位:g/100g)
食品名 | 脂質 | 一価不飽和脂肪酸 | 多価不飽和脂肪酸 | リノール酸 | α‐リノレン酸 |
牛肉[和牛サーロイン] | 25.8 | 13.29 | 0.62 | 0.54 | 0.027 |
豚肉[ロース・脂身つき] | 22.6 | 9.86 | 2.25 | 1.9 | 0.097 |
鴨肉[皮つき] | 29.0 | 13.32 | 5.66 | 5.2 | 0.3 |
鶏肉[若どり・もも・皮付] | 14.2 | 6.71 | 1.85 | 1.6 | 0.073 |
日本食品標準成分表2020年版(八訂) 脂肪酸成分表より
さらに、鴨脂の融点は人間の体温より低く、冷めても固まりにくい性質を持ちます。その脂には不飽和脂肪酸が豊富。α-リノレン酸やリノール酸など、ヒトの健康維持に必要でありながら、体内で生成できない必須脂肪酸を含んだ身体に優しい脂肪分です。さらに、鴨肉は肉の繊維も細かく、口当たりの良い柔らかい食感も特徴です。
つゆに溶けだす脂の甘味と旨味がたまらない日本伝統の鴨鍋や鴨南蛮は、まさに鴨の特徴が活きるメニューと言えるでしょう。もちろん、焼き材として旨味をギュっと閉じ込めるのもおすすめ。コンフィやローストといった洋風メニューにも適しています!
ブランド鴨肉「岩手 美海鴨」

脂と赤身のバランスに優れ、見た目の良いロース(左)と、適度な弾力と濃厚な脂の旨味を楽しめるもも(右)
今回プレコフーズでは、オリジナルブランドの国産鴨である「岩手 美海鴨」を、満を持してリリースします。
「岩手 美海鴨」は、三陸海岸沿いにある岩手県田野畑村の指定農場で飼育されたこだわりの鴨。職人が手間を惜しまず育てた、ワンランク上のチェリバレー種です。田野畑村は、気候や環境がチェリバレー種の原産地であるイギリス東部のリンカンシャー州によく似ており、鴨の生育にとても適した土地と言えます。
のどかな自然に恵まれた広い農場で、美海鴨は潮風を浴びながらのびのびと成長。抗生物質や合成抗菌剤は一切使わず、自然由来の飼料により肥育されます。穀物を原料とした独自配合の飼料は、鴨が食べやすいようにペレット状にして与えています。この細かなこだわりが、鴨のストレスを減らし、くさみの少ない柔らかな肉質を育むのです。抜けにくい羽毛も4つの工程に分けて除去し、最後は人の手により丹念にピンセットで処理。一羽一羽食鳥検査を実施した、安心安全な鴨肉です。

田野畑村の鴨舎
こうして生まれるのが「岩手 美海鴨」。コク深さはそのままに鴨特有のくさみを抑え、甘く芳醇な脂の旨味が堪能できるブランド鴨の誕生です。
1パックあたり450g以上(平均480g)の「ロース」と、280g以上(平均300g)の「もも」がラインアップ。1パック1枚入でサイズが指定された規格のため、原価が大きくブレることなく使用いただけます。ステーキやコンフィなど、ボリュームが必要な1枚をそのまま使用するメニューにも、安心して提供できる規格です。
丹念な飼育の結果生み出された、しっとり柔らかな肉質と、旨味とコクのある味わい。国産鴨肉ならではの上質で繊細な美味は、鴨肉の歴史に新たな1ページを刻むはず! 「岩手 美海鴨」をぜひ貴店でもお試しください!
※「美海鴨」は株式会社プレコフーズの登録商標として出願準備中です。
【参考文献】
千葉貴子.2016.「とり」.農林水産省広報誌「aff」.2016年12月号
第112回『鴨肉』.テレビ朝日「食彩の王国」https://www.tv-asahi.co.jp/syokusai/backnumber/0057/